SIGNALS,U.S.A. PRICE: $ 18.00

 『アウトサイド・オブ・ア・ドッグ T シャツ』シグナルズ社、アメリカ。素材:綿 100%。価格:18ドル。これはアメリカ映画史上屈指の喜劇人である、マルクス兄弟のひとりグルーチョ・マルクスの引用文(quote)をプリンとした T シャツです。マルクス兄弟とは、ドイツ系ユダヤ人の長兄チコ以下、ハーポ、グルーチョ、ゼッポの4人で(ゼッポはのちに抜け、3人になる)、1929年に「ココナッツ」で映画デビューし、そのアナーキーで常識破りの独創的喜劇性でアメリカ喜劇映画の一時代を築きました。彼らのことを称して「ムッソリーニを激怒させ、ダリを驚倒させ、チャップリンも山高帽をとって最敬礼する笑いの革命家たち」と言われるくらい、凄い人たちなのです。 マルクス兄弟の中で、グルーチョ・マルクス(1890〜1977)は、とにかくもの凄いスピードで滅茶苦茶に喋りまくるのが特徴で、「ビット」と言われる彼独特のアドリブ的セリフは有名で、数々の名セリフを残しています。その中の一つがこの引用文です。実はこれを日本語にするのが大変難しいのです。チャップリンが敬愛するほどの喜劇人が日本ではあまり馴染みがないのも、ナンセンスで奥が深いセリフのせいもあるようです。まず、" Outside of a Dog, a man's best friend is a book;" は「犬以外( = Outside:外側、以外)では人間の最良の友は本である。」と言う意味。 " inside of a dog, it's very dark." は " it's too dark to read." というのが一般的に知られている引用文で、「犬の内側 (=inside)では、暗すぎて本は読めない」という意味になります。"outside"と"inside"をひっかけているのですが、解釈の仕方によっては、「犬の内面はなかなか読み難い」とも訳すことが出来、とても奥が深い。抜群のセンスと知的なブラックユーモアが凝縮したグ数多くのグルーチョ・マルクスの引用文には欧米では信じられないくらい多くのファンがいます。その生活と文化に根付いた言語を理解できない日本人である私は、ただ嫉妬を覚えるばかりです。グルーチョ・マルクスも認めている、人間の最良の友である犬たちの方こそ、私たち人間のダークな内面を理解できないと思っているかもしれませんね
雑誌『WAN』(ペットライフ社刊)1997年6月号掲載