SCARY STORIES,Inc.,U.S.A. PRICE: $ 20.00
  『スケアリー・ストーリーズ ”バイト・ミー・ボーボー”』。スケアリー・ストーリーズ社製、アメリカ。大きさ:10インチ(24.4cm)×8インチ(20.3cm)。素材:フリース。価格:20・00ドル。これはニューヨークで活躍中のカナダ・トロント出身の女性アーティスト、ウェンディ・アン・ガーデナーさんによるぬいぐるみです。
  このなんとも「変」なぬいぐるみは、 『スケアリー・ストーリーズ』というカラフルでポップな動物ぬいぐるみのシリーズのひとつ。シリーズは犬や猫を中心にして、現在全部で17種類あります。「怖いお話」という意味のシリーズ名が示すように、そのどれもがちょっとだけ不気味なルックス。なのに、形容しがたいかわいさを持っています。彼女がこれらの作品を作るきっかけとなったのは、友人のフレンチブルドッグ。もともと画家として活動していた彼女はその犬の絵を描いたのですが、あまりにかわいく描けたので、思わずぬいぐるみを作ってみたのだそうです。その後友人の赤ちゃんへの「エキセントリックなギフト」として、ジョークのつもりでプレゼントしていたのが評判になり、ついに商品化されたというわけです。他のぬいぐるみのモデルは、どれもニューヨーク、トライベッカ地区(あの惨事が起きたワールド・トレード・センタービルのすぐ隣)にいる実在の動物たち。それぞれに名前があって、いずれもファンキーです。写真の“バイト・ミー・ボーボー”の「ボーボー」は、幼児言葉の『おねむ』の意味。確かに、見ているだけでこちらが眠くなってしまいそうな顔です。その他には "VICIOUS FRENCH BULLDOG"(「ワルのフレンチブル」:最初の作品、黒いフレンチブルドッグ)、"I LIKE LAIKA BUTSHE DOESN'T LIKE ME"(「ボクはライカが好きだけど、ライカはボクがキライ」:真っ赤なバンダナを巻いた気取った短足犬)、"HANDSOME HOOK LOST A FOOT"(「かっこいいフックはフット[足]をなくした」:紫色のこの犬のぬいぐるみは実際に足がありません)、"POOR SARAH GOT SOLD FOR TEN BUCKS"(「かわいそうなサラは10ドルで売られた」:黄緑のひれがある青い魚)など、モデルの性格やストーリーを想像できる点にも、アーティストとしてのこだわりが感じられます。『スケアリー・ストーリーズ』は、ニューヨーク近代美術館(MOMA)やロサンゼルス現代美術館などのミュージアムショップ、高級インテリアショップなどで販売され、数々のファンション雑誌やインテリア雑誌で取り上げられることでさらに評判を呼び、ウェンディさんはとうとう会社まで立ち上げてしまいました。現在彼女はそれぞれのキャラクターが登場する絵本やアニメーション作品にも取り組んでいるようです。公式ホームページ"Scary Stories Inc."=
http://www.scarystoriesinc.com/では、ネットショップ、アニメーション作品、イベントレポート、『スケアリー・ストーリーズ』ファンの投稿写真などを楽しむことができます。特に「ペット・オーナー」と呼ばれるファンの投稿写真はなかなかおもしろい。海外旅行先での「ペット」のスナップ(イタリアのヴェニスにいるところ!)、バックパックに「ペット」を入れて通学している大学生、自分の「ペット」用のパスポートなどなど、『スケアリー・ストーリーズ』のぬいぐるみと「いつも一緒の楽しい暮らし」を垣間見ることができます。
 こうした楽しみ方を見ているうちに、1996年に誕生したバーチャル・ペット『たまごっち』、1999年に誕生したソニーの『アイボ(AIBO)』、その他たくさんの「新種のペット」たちを思い出してしまいました。これらのペットたちに共通しているのは、「モバイル」できることでしょうか。(アイボは持ち歩けない?そんなことはありません。最近かのエルメスから専用キャリーバッグが発売されたのですから)
  思えば、わが日本でもほんのこの10年くらいの間に「犬を連れて行くライフスタイル」がかなり広まってきました。昔は犬は「いつも家で待っていた」存在で、出かけるとしても近所の散歩だけでした。しかし今ではキャンプや旅行に行ったり、おしゃれなカフェに入ったり、イベントに参加したり、さらには一緒に通勤したりということが、それほど珍しいことではなくなってきました。いつも庭先でつながれているより、飼い主と一緒にいる時間が長くなる「愛犬モバイル時代」は、群れの動物たる犬たちにとっても、飼い主にとっても、はるかに幸せな時代であることは間違いないでしょう。
  さて、この『スケアリー・ストーリーズ』、持ち歩くのはちょっと度胸がいるかもしれませんが、ブサイクだけど愛くるしい表情を眺めていても、ふかふかのフリース素材を触っていても、妙に心が和むのでおすすめです。しかし犬を飼っている方にとっては、「格好の餌食」になってしまうかもしれないので、要注意!

SCARY STORIES INC = http://www.scarystoriesinc.com/





これは雑誌『DOG days』Vol. 10 (2001年10月発行)に掲載されたものです。

『犬物商品文化研究所』は1995年1月から雑誌『WAN』(ペットライフ社刊)に5年間(60回)連載しました。
その後、雑誌『DOG DAYS』にパート2として2001年1月から連載がはじまり、現在も連載中です。